てのひら怪談

昨日、『てのひら怪談大賞』の選考結果が発表されました。

実は「イズミスズ」という名前でこっそり応募しておりまして。
受賞はありませんでしたが、各選考委員が選んだ優秀作品の中
加門七海さんのベスト30に『青い灯』という作品を入れて頂く事が出来ました。
初投稿なもので勝手も分からず、戸惑いながらの応募でしたが結果が良くて嬉しかったです。
読んで下さった方は本当にありがとうございました。

※追記 『青い灯』がMF文庫ダ・ヴィンチ「てのひら怪談 癸巳」に掲載されました!



応募した作品はこちらから↓
イズミスズ / 『青い灯』、『痴漢の手』、『風葬の猫』

※追記 該当記事が削除されたようなので
      選出に至らなかった作品だけ、ここに掲載させていただきます。
      投稿時からは少しだけ修正が入っています。


--------------

『風葬の猫』

私の父は子供の頃、沖縄県那覇市にある集合住宅に住んでいた。
住宅の裏手に小さな山があり、何故か近隣の人々はあまり近寄らなかった。
理由はどうもはっきりしない。
気になった父は、ある日一人で山の奥へ入ってみる事にした。

外からは分かりにくいが、山の中は木々が密集してとても暗い。
足下ばかりに気を取られ、突然ふわっと視界が塞がれて驚いた。
目の前で、猫の死骸が木の枝にぶら下がっていた。
思わず悲鳴を上げる。死骸は荒縄によって枝に括り付けられ、猫が自ら首吊り自殺したかのようだった。
父は呆然とし、しかしすぐその理由を察した。
沖縄の古い風習で、猫が死ぬと木に吊るすのだと聞いた事があった。
理由があれば怖くはない。安心した彼は子供らしい好奇心で猫を観察した。
口から変色した舌がはみ出し、縄を絞めすぎたのか首の骨は折れていた。

「にャあ」

急に、猫の甘えるような声が聞こえた。
それは確かに目の前の死骸が発した。父は猫を凝視する。首がねじ曲がり、どう見ても死んでいた。
それでも猫はこちらを見ていた。ぎょろりと瞳だけが動いて強く光った。
「にゃあアア」
青黒い舌先を震わせ、猫は再び鳴いた。
そして呼応するように、森の奥から別の鳴き声が聞こえてきた。
にゃあ、にゃあ、にゃああ、にゃあアアア。
次々と猫が鳴く、鳴く。
甘えた声が輪唱となる。
堪えきれなくなった父は、耳を押さえて逃げ出した。

死んだ猫を吊すのは、化け猫になって戻ってくるのを防ぐ為だと後から知ったそうだ。
「今の猫は、死んだらどうなるんだろうな」
そう言って父は話を終え、飼い猫の頭を撫でて笑った。

数年後にその猫が死んだとき、木に吊そうとは言わなかった。




終.




『痴漢の手』

出勤中の電車の中で、痴漢に遭ってしまった。

毎日同じ時刻に乗っていてその日が初めてだった。
吊り革を掴んで立っていると、背後からそろりそろりと臀部を撫でられた。
酷く不快に思いながらも、混んだ車内で大声を上げる勇気が出ずに我慢した。
次の被害者を考えると後ろめたくもあったが、恥ずかしいし仕方なかったのだと無理やり納得したのだった。

しかし、それはまだ終わっていなかった。
翌日もまた尻を撫でられて驚いた。やはり声は出せず、仕方なく次の日から電車を一本ずらす事にした。
けれどその次の日も痴漢は現れた。車両を代えても同様で、さらには逃げ出しても付いて来る始末である。
無差別ではなく、私自身が狙われているのだと今更気付いて自己嫌悪に陥る。
なんと能天気に考えていたのだろうか。

いくらなんでも我慢がならず、とうとう勇気を出して文句を言うことにした。
いつも通り、電車に乗る。混み合う車内で乗客の体はぶつかり合った。
大変ではあるが、これは自然な事だ。私はやがて訪れるであろう不自然を待つ。
案の定、五分もしないうちに例の違和感を感じた。
間違いなくいつもの相手だ。
怒りと羞恥に震えながら、後ろを振り向く――。


私の後ろには誰もいなかった。

何故か触られる感触は続いている。
不思議に思って視線を落とすと、私の上着の裾からにゅっと生えた手が尻を撫でさすっていた。




終.
関連記事
[ 2013/01/26 20:37 ] 雑記 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://snarkmori.blog.fc2.com/tb.php/64-6b806cb5