紅葉狩

夢ばし覚まし給ふなよ、夢ばし覚まし給ふなよ。

紅葉狩り

『紅葉狩』
余五将軍惟茂、紅葉狩りの時に山中にて鬼女に会う事。謡曲にも見えて、誰もが知ることであるからここでは余計に説明せず。(鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』)




昔は説明が不要なぐらい有名だったらしい『紅葉狩』。能の演目として、今でも知られています。




戸隠山の山中で、高貴な女性の一行が紅葉を見物しながら酒宴を行っている。
そこへ鹿狩りに来ていた平惟茂が側を通りかかった。美女に誘われ、断りきれずに惟茂は宴会に参加する。一緒に酒を飲む惟茂は美女の優雅な舞を見ているうちに眠ってしまい、彼女達は「目を覚ますなよ」と言いながら立ち去る。
すると惟茂の夢の中に八幡大菩薩の使いである武内の神が現れ、女達の正体を教える。そして八幡大菩薩から預かった太刀を惟茂に授けた。
惟茂が目を覚ますと、女達は鬼神に変貌していた。岩に火を吹きかけ、巨大な体で襲い掛かる。しかし惟茂は少しも慌てることなく、与えられた刀によって鬼を成敗するのだった。




これが謡曲『紅葉狩』です。
この演目では、鬼神の化けた女の美しさと、鬼神と武士の戦いという力強さの両方の面にスポットが当てられています。前半で美しい舞を見せた美女が、後半では恐ろしい鬼神に変貌し暴れまわるという迫力の演出です。
同じ内容で歌舞伎の演目にもなっており、これには更科姫という鬼女が登場します。

さらに「紅葉」と「鬼」の物語については、芸能以外にも実際の戸隠山に伝わる伝説で有名です。
こちらでは美女に化ける鬼の集団ではなく、「紅葉」という名前の一人の女性が主役になっています。





ある夫婦が子供の出来ないことを悲しみ、第六天魔王に祈願したところ女の子が生まれた。夫婦はその子に「呉葉(くれは)」という名をつけて可愛がった。

美しく育った呉葉に豪家の息子が求婚するが、呉葉の父は娘を位の高い貴族に嫁がせたいと思い結婚を断る。しかし相手がなおも食い下がるため、呉葉は妖術で作り出した自分の分身を嫁がせる。呉葉と両親はそのまま支度金を持って京の都へと逃げ出し、偽者の呉葉は程なくして消えてしまった。
京に上った呉葉は「紅葉」に名前を変え、芸事に勤しんだ。紅葉は琴の腕を買われ、源経基の家に奉公することとなる。やがて経基の寵愛を受けるようになった紅葉は、今度は呪術によって正妻を殺そうとする。丑の刻になると正妻の元に鬼のような者たちが現れて苦しめた。
しかし紅葉の呪いをかける姿が目撃され、病平癒の祈祷を行った僧に企みを暴かれてしまう。彼女は捕らえられ、戸隠山へと追放された。

山に移り住んだ紅葉は、麓の村人の同情を買い、また病を治す祈祷を行うなどして信頼を得る。追放される前に宿していた経基の子も生まれた。
しかし幸せな暮らしを手に入れたはずの彼女は、男装して盗賊となった。富豪の家々を襲い、他の盗賊団をも手下につけた。やがては人を殺し、その生き血をすするのを楽しむまでになる。

「戸隠山の鬼女紅葉」の噂が広まり、天皇の勅令によって平惟茂に山賊退治が命じられた。惟茂は部下に戸隠山を攻めさせるも、幻術によって撃退されてしまう。そこで神仏の力を借りようと北向観音に祈願する。七日目の夜、夢に老僧が現れて戸隠山を案内、降魔の剣を授けた。
惟茂は全軍を率いて戸隠山に攻め入る。幻術も効かず、矢を射られた紅葉は鬼神の姿を現して空中に飛び上がった。すると突然天から金色の光が差して紅葉を照らす。光が当たった紅葉は地面に落下し、惟茂によってその首を取られたのであった。





以上、鬼女紅葉伝説の大筋でした。

明治時代、戸隠山の伝説を元に書かれた『北向山霊験記』という小説によるものです。長野市の戸隠や鬼無里地区ではこの伝説にまつわる場所も多く、紅葉ゆかりの寺や彼女が隠れ住んだ岩穴、彼女の墓といわれる石塔などが残っています。さらに現在でも、毎年紅葉のお祭りが行われているという人気ぶり。

鬼女紅葉の物語は謡曲『紅葉狩』と同様、平惟茂による鬼退治譚です。
ただし謡曲とは違い、一人の女性を主役に置いた話となっています。彼女の生い立ちから最期までを克明に描いたこの物語において、「武士が鬼を退治して問題解決」という流れでハッピーエンドとするには多少の寂しさすら感じられます。そのことを考えると、地元における紅葉の人気というのも納得できるのではないでしょうか。





(主な参考:『the 能 ドットコム』http://www.the-noh.com/jp/index.html、小松和彦『日本妖怪異聞録』、GAKKEN MOOK『日本の妖怪の謎と不思議』)



季節的にはもう冬なのかもしれませんが…どうしても描きたかった『紅葉狩』。
描いてるうちに、美女というより少女になってしまいました。紅葉狩りならぬ紅葉ガールということでひとつ。能の『紅葉狩』か、伝説の『鬼女紅葉』かはお好きなほうでどうぞ。


ところで長野市で行われる鬼女紅葉のお祭り、戸隠と鬼無里の二ヶ所で行われていると聞いたんですが本当でしょうか。豪華すぎる。祭りの写真とか見てたら本当に楽しそうで、ぜひとも行ってみたいです…いつか。

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