相撲幽霊

うわなり打ち


・『諸国百物語』より「栗田左衛門介が女房、死して相撲を取りに来る事」。

栗田左衛門介は妻を亡くして三年独身でいたが、周囲の勧めで再婚した。すると左衛門介の留守中、後妻のもとに前妻の幽霊が現れる。後妻は相手が幽霊だと気づかず、「こんなきれいな奥さんがおりながら重婚とは、武士の風上にもおけぬ!」と夫を問い詰め離婚しようとする。すると夫は「前妻は三年前に亡くなっており、それ以後あなた以外に妻を迎えた事はない。きっとそれは幽霊である。私に命を預けたと思って留まってくれ」と説得し、妻は仕方なく家に残った。
しばらくすると再び前妻が現れ、まだ出ていかないのかと憤る。「あなたは亡くなっているのだから、あなたこそ帰るべきでしょう」と説得しようとすると、前妻は「ならば相撲で勝負し、負けた方が帰ることにしよう」といって跳びかかってきた。しかし後妻の方も負けてはおらず、「承知した!」と受けてたつ。
途中で左衛門介が帰ってきたので決着がつかなかったが、その後も留守を狙っては五回も相撲を取った。しかし何度も幽霊を相手にして思い悩み、後妻はだんだん弱っていった。何度も幽霊が来ていた事を、最後に打ち明けてから妻は亡くなり、夫は出家して修行の旅に出た。


○○○


後妻を追い出そうとする前妻の幽霊もパワフルですが、それ以上に受けてたつ後妻が格好良い。
呪い殺すなどではなくて、物理的に勝負をするという面白いパターン。幽霊だからといって力が強くなったりもしていない。正々堂々と相撲勝負…さすが武家ですね。





ちなみに、これと似た話が中国の怪異小説にもあります。



・『聊斎志異』より「鬼妻」。

聶という男の妻が亡くなり、悲しんでいると妻は幽霊となって戻ってきた。彼は喜びしばらくの間そのまま一緒に暮らしていたのだが、家族に説得されて後妻をもらうことにした。その話を知った幽霊の妻は男の不実をなじって消えた。
婚礼の夜、前妻がやって来て「私の寝台を取るな」と後妻を殴る。後妻も負けじとつかみかかり、取っ組み合いとなった。夜が明け前妻が帰ると、幽霊だと気づいていない後妻は「奥さんは死んだと言って私をだましたのですね」と怒り自殺しようとした。それをなんとかなだめ、説明すると後妻はおびえてしまった。その後も前妻の幽霊は現れ続けたため、やむなく男は除霊を頼み、それからは何事もなかったという。


○○○


幽霊なのに殴って追い出そうとする前妻が、怖いような可愛いような。聊斎志異もとい中国怪談は、幽霊と生身の人間があんまり変わらなかったりして面白いです。牡丹灯籠も中国原案だし。

先ほどの相撲幽霊と話が似ていますが、こちらの場合、男が幽霊を一旦受け入れてしまいます。妻二人が喧嘩してもおろおろするばかりとちょっと格好悪い。一方奥さん達は、勝負というより殴り合いのケンカ…強いですね。








おまけ。


・同じく『諸国百物語』より「大森彦五郎が女房、死してのち双六をうちに来たること」

妻が亡くなって三年、周囲に説得されて彦五郎は妻を迎えることにした。すると前妻と仲の良かった侍女が彦五郎にこんな話を打ち明けた。
「私は生前の奥様とよく双六を打ち合っていました。しかし実は亡くなってからも夜な夜な現れて一緒に双六をし、もう三年になります。しかし旦那様が後妻を迎えられることになったので、私は、『奥様には子供の頃から可愛がっていただき、とても感謝しております。しかし後妻を迎えられる今、奥様が夜な夜な来ている事が知られれば、きっと後妻を妬んでいるのだと勘違いされてしまいます』と訴えました。すると奥様は「確かに、双六打ちに未練があったとは誰も思わないでしょう。わかりました、もう来ません」と言って帰ってしまわれました。」
それを聞いた夫は双六盤を墓の前において弔ったという。


○○○

こちらは双六幽霊です。(ここでいう双六は私たちの遊ぶ紙双六ではなく、盤の上で何個も駒を使う別のもの)
双六打ちに来る幽霊は微笑ましいですね。しかし、旦那に対して未練がなさすぎるのでは…。まさか三年通って一度も会いにこないなんて。

関連記事

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://snarkmori.blog.fc2.com/tb.php/4-1fc6fc7b