絵の中の美女③【解説】

「絵の中の美女」漫画()の解説です。
漫画の原案である怪談の紹介(長いです)と、ちょっとした補足など。

以下、元ネタである「調介 姿絵の女と契りし事」の大まかな現代語訳です。

出雲に調介という裕福な百姓がいた。
ある日友人の元を訪ねると、床の間に美しい女の姿絵が掛けてあった。
まるで生きているかのような麗しさに調介は見惚れた。
友人いわく、都に行った際にある人が持っていたのを所望し頂いたのだという。
「このような美女がもしも本当の人間だったら
私は財宝を投げ打っても惜しくはないのに」と調介が言うと、友人は彼の側に近寄って
「本当にそう思うのなら、私の聞いた秘術を試してみるか」と尋ねる。
どういうことかと笑う調介に、友人は「この絵を本物の人間にする奇術だ」という。
「あなたは私をあざむくつもりか。それは戯言だろう」
「私も真偽は知らないが、この術が伝わっているのは本当だ。
しかしそのように疑いの心が強ければこの術はとても行われない。
あなたがこの絵に深く執着するようだから申したのだ。無理にとは言わない」
それを聞いた調介は「私が間違っていた。どうかその術を教えて欲しい」と頼んだ。

友人が語るに「まずこの絵をあなたに与えるから、家に帰って密室に閉じこもり
この絵に向かって真々と呼びかけなさい。
それを昼夜、百日続けるのだ。一日も怠ってはならない。
百日経ったときこの絵は必ず応えてくれる。
その時に八年物の古酒をその顔に注ぎなさい。
そうすれば女は絵から離れて人間となるだろう。この行いは人に見せてはならない」
調介は「これぞ我が一生の本望」と喜んで礼を言い、家へと帰った。

教えられた通り百日丁寧に行ったところ、絵の女は言葉を話すようになった。
古酒を顔に注ぐと、たちまち絵を離れて飛び出してきた。
調介が試しに飲食させてみても普通の人と何も変わらない。
よく喋り笑うのを見て、調介はとても喜び、女と深い契りを交わした。
それから年月を重ね、子供も産まれた。
調介は家族をいとおしみ、例の友人には数々の宝を送って感謝した。

しかしある日、石見から調介のいとこである進兵衛が訪ねてきた。
彼らは久々の再会と無事を喜び合った。
進兵衛は調介に妻子がいることを知り、その美しく清らかであるのを褒めた。
「どちらから迎えたのでしょうか。今までどうして教えてくれなかったのです」
調介が小声になって事の仔細を語ると、進兵衛はとても驚き
「それは天理に背いている。おそらく妖術だろう。
幸いなことに、私は希少な名剣を持っている。
しばらくあなたに貸すから、かならずこの妖婦を殺しなさい。
そうしなければ、後で大きな災いがあるだろう。
くれぐれも惑わされて執着してはならない」
と苦々しい顔で言った。調介はどうして良いか分からなかったが、
進兵衛が言うのにも背けずその名剣を預かることにした。

しかしその後、妻が調介に向かってこう話した。
「わたしはこの南方に住む地仙です。
たまたまあなたに招かれて、今まで一緒におりましたが
はからずも進兵衛の言葉によってあなたは疑いを持ってしまった。
そうなった以上私はもうここにはいられません」と子供を抱く。
以前調介が注いだはずの古酒をことごとく吐き出し、空中に消えてしまった。
調介は限りなく惜しみ悲しんだが、それは無駄であった。
あまりに恋しくて例の絵を取り出してみると、
不思議なことに、絵の中で女がはっきりと子供を抱いていた。
あまりに不思議だったので、ある博識の僧に尋ねたところ
「このような例は中国の書にも書かれている。日本でもあり得るだろう」というのであった。

参考:『太平百物語』より「調介 姿絵の女と契りし事」


この話が収録されている『太平百物語』は
享保十七年(1732年)に刊行された怪談・奇談集なのですが
これよりも前に、『御伽百物語』という本が宝永三年(1706年)に刊行されています。
この『御伽百物語』にも調介の話とよく似た話が収録されているのです。

その話をざっと要約すると、

世に名画といわれるものが不思議な力を現すことは、
古くから多くの記録にある。
篤敬という書生が古い屏風を買ったところ
片面に女の絵が描かれていることに気づいた。
十四、五歳ぐらいで立ち姿がとにかく美しい。
篤敬は見惚れ、すぐさま恋に落ちた。
彼の恋煩う様子を見て、親しい人があることを教えてくれた。
「この絵は菱河吉兵衛(菱川師宣)が、実在の女性の姿を熱心に写したものだ。
そのため絵には魂も移っている。
この人の名を一心に念じて呼びかければ必ず答えてくれる。
次に百軒を回って酒を買い、この絵に供えよ。
そうすればこの女性は絵から離れて本物の人になるだろう」
喜んだ篤敬が毎日念ずると絵は答え、酒を供えれば絵から歩み出た。
そうして彼は絵の女性と縁を結んだのである。

参考:『御伽百物語』より「絵の婦(おんな)人に契る」


この話にはさらに原案があるらしく、
絵の中の人間との交流はよくある話なのかもしれません。
中国の話でも、壁画の中に入って
その絵の美女と恋愛する怪談(聊斎志異の『画壁』)が有名です。

今回紹介した話のように
百日休まず呼びかけるか、百軒分の酒を買ってくれば
美しい女性が絵から現れるのでしょうか。

…どちらにしても、大変そうな話です。



《参考文献》
太刀川清校訂『叢書江戸文庫2 百物語怪談集成』国書刊行会
江馬務『日本妖怪変化史』中公文庫
高田衛編『日本怪談集 江戸編』河出文庫
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