狐憑きの話

根岸鎮衛『耳袋』より、狐憑きの話です。


狐と道理


『耳嚢(みみぶくろ)』巻の六より、「妖狐 道理に服従の事」



八王子の千人頭(警備隊の組の頭)である山本銕次郎は、
私(筆者「根岸鎮衛」)の親友、川尻氏の親族である。
山本が妻を娶ることとなった際、川尻氏の祖父が世話を焼いて、荻生惣七の娘との仲を取り持った。

ところが結婚後の妻は狐が取り付いた様子で、何やらとても不埒なことを口走る。
夫である山本はこれを責め、
「いかなる訳があって、私の呼び迎えた妻に付いたのか」
と取り付いた狐に道理を説き聞かせれば、その理に納得したらしく
「分かりました退きましょう。
しかし付いたのは私だけではなく、江戸から付いてきた狐もいる」と言うので
「それはともかくお前は出て行きなさい。」
としきりに責めたところ、その狐は出て行った。

それでもまだ正気にならないので責め諭すと
「私は元よりこの女に恨みがあるから取り付いてきたのだ。
とても出て行くわけには行かない」と答える。
それを聞いて山本は
「それは納得いかない。江戸表からここへ嫁ぐ時、
すでに狐が付いている様子だったら嫁入りさせるわけがない。
それならもし今離縁したとしても、ここで狐が付いたのだと、彼女の里では思われるだろう。
狐が付くように尋常ではないから離縁したと思われては、武士道として難儀である。
いずれにしても彼女から離れなさい」
と厳しく責め諭したので狐は納得した。

分かった退きましょうと答えるが、山本はなおも考え
「離縁後、里に帰ってすぐに狐が付いたということになっては同じことだ。
これらの訳を詳しく証文に書きなさい」と言った。
「書くことは出来るが、文言はつくれない」と答えるので
山本は「文言は私が注文をつけよう」と言って詳しく書かせた。
「書面だけでは怪しい話になり、人々は疑うだろう。狐がついたという証拠がなくては」
とまた責め諭し、「印がなくても、人間なら爪印(拇印)がある」と教えたところ
手を口元に寄せて墨をふくみ、書面に押した。
そこには獣の足先の跡のようなものが残った。
「これで良い」と言って、
山本は離縁状を添えて川尻氏に戻し、荻生家に返して妻と離縁した。

荻生惣七は荻生徂徠の甥であると、川尻氏は語っている。





狐は落ちたけどやっぱり離縁はするのでした…。

すごく客観的に諭してくる夫。
そして理詰めには応じる狐。

狐に取り付かれると
拇印まで獣の手になる不思議…めっちゃかわいいです。

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