『わたしの赤マント』について

以前「怪人赤マント」について調べた際、小沢信男の短編小説『わたしの赤マント』を紹介した事があります。
(そのときの記事→『怪人赤マント追記』


その小説内で、主人公である牧野次郎は昔に読んだという新聞記事を探していました。彼が語るに、昭和15年頃「一人の男が赤マントに関する噂を流して逮捕された」というものです。男は年齢30歳くらいの銀行員。社会主義思想の持ち主で、銃後の人身を動揺させ、厭戦的気分を広めるために行ったといいます。牧野は子供の頃にこの記事を読んだ覚えがあるのだが、どうしても見つからないということを話しています。そしてその謎を残したままこの小説は終わっています。
創作上の謎とはいえ、この小説は実際の資料をもとにして書かれた部分が多く存在します。そのため新聞記事の話題が本当にフィクションなのかは判断しかねる内容でした。


ところが最近、『瑣事加減』のsamatsuteiさんからご連絡があり、その新聞記事だとおぼしき文がみつかったとのことでした。



(引用元 【『瑣事加減』「赤いマント(13)」http://d.hatena.ne.jp/samatsutei/20131103】)

「デマ取締り/通信社員留置さる」

 “戦時下の帝都に最近政、財界を撹乱するごときデマや、王子方面から全市にひろがった「赤マントせむし男」の吸血談など社会不安を醸成する悪質の流言飛語が盛んに流布されるので、警視庁情報課ではこれらのデマの根元を絶つため徹底的な取締りを行うことになり、二十五日管下各署へ厳重な視察内偵方を通達、一方捜査二課もこれに協力して去る二十三日来品川区大井倉田町三三六三 某通信社員拵智憲(三八)を留置、小林警部が取調べているが、同人は本月中旬から財界方面に平沼首相が暗殺されたと触れ歩き銀行界に相当衝動を与えたといわれる。
この種の流言は私利私欲のためにするものが多いので、警視庁では同人の背後関係についても厳重追及している。”

 ※引用文から区切り・記号を削除、また常用漢字への修正済み



samatsuteiさんの説明によると、この記事は昭和十四年二月二十五日夕刊(二十六日付)の読売新聞に載っていたものです。

銀行員ではなく通信社員の男ですが、小説内の情報と上手く合致しています。政財界を撹乱するようなデマ、吸血赤マントの噂による社会不安、留置された通信社員、銀行界への衝動など、「赤マントの噂を流す行員」のイメージを形成するようなキーワードがいくつも登場します。著者である小沢信男は子供の頃にこの新聞記事を読み、そしてその記憶を元にして『わたしの赤マント』という小説を書いたのではないのでしょうか。そして『わたしの赤マント』がこの記事を元にしていたとすると、赤マントのデマを流す銀行員説はこの小説から生まれた噂話であるということになります。
さらにこの新聞記事によって、昭和十四年当時に赤マントが新聞報道されていたという事実が確認出来ます。赤マントのデマは警視庁が取り締まるほど流行し、社会問題として新聞にも取り上げられていたのです。

現在、samatsuteiさんのブログにて赤マントに関する研究が連載中です。
新聞記事の紹介だけでなく、赤マントに関する細かな調査や考察が記されています。赤マントについて興味のある方は是非ご覧になってみてはいかがでしょうか。



 → samatsutei 『瑣事加減』(別ウィンドウで開きます)

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[ 2013/11/09 21:05 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ご確認有難うございます。

指摘のあった箇所は訂正致しました。何かを紹介する際、私のブログでは簡単な説明や要約文だけの場合が多いのですが、samatsutei様のようにほとんど原文のままで掲載しているサイトがあるととても助かります。参考文献を表記していても、実際に資料を探すのは結構大変ですよね。

とても参考になりました。
連載、これからも楽しみにしています。
[ 2013/11/09 22:16 ] [ 編集 ]

『東京百景』収録に際して改稿

コメント有難うございました(公開しました)。
「わたしの赤マント」は初出誌と『東京百景』の他、種村氏の『日本怪談集』など3種の本に再録されている《事実》は確認していましたが、『東京百景』以外の本文の確認は出来ていませんでした。特に初出誌「文芸」は、国会図書館では当該号の辺りがちょうど「デジタル化」作業中のため、閲覧出来なかったのです。
実は、すずしろ様がアカい行員の新聞記事を「昭和15年」としているのを不思議に思っていたのですが、恐らく『日本怪談集』は初出誌の本文をそのまま採用したので、『東京百景』は改訂版なのでしょう。初出と再録の確認は必須の作業と心得ておりましたが、なかなか思うに任せず、ご指摘によりやはり手を抜いてはいけないなぁと反省した次第。
もう少し先になりますが(そこが東京に粘っている利点でもありますので)「私の赤マント」の本文研究もアップするつもりです。ただ、目下1ヶ月分以上の材料があり、ネタは尽きないとしてもちょっと苦しくなってきました(笑)。
今後とも宜しくお願いします。
[ 2013/11/20 22:19 ] [ 編集 ]

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