続・仲西ヘーイ

「仲西ヘーイ」と、呼んでごらん。

仲西さんと

以前にも紹介しました仲西、再び。
その後も関係資料をちらほら見つけたので、補足しつつ再度説明いたします。



『ナカニシ(仲西)』
沖縄の妖怪。仲西とは人の姓である。晩方、那覇と泊の間にある塩田潟原の潮渡橋付近で「仲西ヘーイ」と呼ぶと出てくるという。 
 (金城朝永『琉球妖怪変化種目』より)



○○○

『琉球妖怪変化種目』で紹介されている仲西の詳細はこれだけですが、「仲西ヘーイ」という呼び声は沖縄の民話にも登場します。

モーイという人物が那覇で遊んだ帰り、真夜中の墓で夫の骨を洗骨する女と出会った。(沖縄では昔、土葬・風葬したあとから骨を洗って墓に納めるという慣習があった。)モーイは洗骨を手伝い、法事のために金も与えた。
するとそれ以後、モーイが夜道を歩くと提灯の明かりが現れて前方を照らすようになった。人の姿は見えないが声をかけると返事をし、洗骨のお礼だと言った。モーイは納得したが、しかしそういつもは必要ないと返す。それなら用事のあるときは、「なかにしヘーイ」と三度繰り返して声を掛ければいつでも現れると約束した。
ある日、モーイは火急の連絡で山原へ行かねばならなくなった。モーイが「なかにしヘーイ」と呼びかけると、ちょうど牛のようにして出てきて、「さあお乗り下さい」とモーイを乗せて山原へ向かった。モーイは驚くべき速さで山原へ辿り着き、連絡を届ける事ができたという。

(伊芸弘子『沖縄首里の昔話―小橋川共寛翁のチティバナシ』、崎原恒新『琉球の死後の世界』)



これは那覇市・首里に伝わる民話です。モーイはこの話だけに登場する人物ではなく、「モーイ親方」という呼び名で沖縄の昔話によく登場する定番キャラクターです。とりわけとんち話などで活躍するモーイ親方、彼が幽霊に恩返しされるというパターンの民話は沖縄の各地に存在します。首里の昔話の場合、モーイは「なかにし」という幽霊らしき者に恩返しされます。他の地域の民話だと、恩返しする者の名は単純に「幽霊」と表記されることが多く、中には「仲村渠(なかんだかり)のおじいさんヘーイ」というような呼び方になっている話もあります。
その事を考えると、首里の民話に登場する「なかにし」は潮渡橋の「仲西」とはあまり関係がない、あるいはたまたま結び付けられた話なのかもしれません。


○○○


民話とは別にもう一つ、比嘉春朝「沖縄本島の神隠し」という論文にも仲西の名前が出てきます。

比嘉春朝いわく、神隠しのように人が突然行方不明になる事を、沖縄ではムヌマイー(物迷い)またはムニムタリーン(ものにさらわれる)といいます。これはたいてい夕方から夜中頃、村外れのような淋しい場所で起こります。人をさらう「もの」とは一種の魂であり、「もの」は人をさらってあちこち連れ回し、しまいにはどこにでも放ってしまうそうです。「もの」にさらわれた人は普通の人が歩けないような所、木の梢や水面、断崖絶壁のような場所も平気で歩くといいます。

その他ムヌマイーについて、
・さらわれている最中に屁を放つと「もの」が手を離してしまうので、水面を歩いていたりすると溺れて死んでしまう。
・「もの」につかまった人間は小豆飯といって赤土を食べさせられる。
などという事が説明されています。


↓以下、本文より「仲西」に関する部分を抜粋。

『那覇と泊との間の潟原という塩田の間に「潮渡」という橋がある。夜分その橋の近くで「仲西へい」(仲西やーい)と呼べば、すぐに「もの」にさらわれる。ムヌマイーがあると、その部落中の青年たちが手分けして捜索する。物として村里近き洞窟、森の中等を捜す。彼等は棒を携え銅鑼を叩き、「どこそこの誰々やーい、小豆飯を食わぬか(アカマーミーメークエーヨー)」と大きな声で呼んで捜し回る。たいていは洞窟の中に奥を向いて座っている(横になっているのはあまりない)。たまには池の底、井の中などに坐っているのもある。二、三日中に発見し得なければたいてい餓死するが、七日位まで生きていた例もある。発見したら、最初に左足で三度臀部を強く蹴る。これで「もの」は彼から去るのである。それから家に連れて帰る。しかしたいていは腑抜けになって、一、二ヶ月は物もいわない。ムヌマイーした人は自分でもムヌマイーしている事をはっきり意識しているが、何物かに引き摺られるように水の上、木の梢、暗渠のような処を通っていて、村の人たちが自分を捜して大きな声で自分を呼んでいるのもはっきりわかるが、ただ口は塞がれて一言も物が言えず、また自分の方からは村の人達がよく見えるのに、村の人達は自分を見ない事があるそうだ。』

 (比嘉春潮「沖縄本島の神隠し」『比嘉春朝全集』第三巻)



民話から一転、この論文での仲西は、人を神隠しする凶悪な存在として扱われています。誰かに見つけて貰うことが出来なければ、そのまま死んでしまうことさえ有り得るのです。




世話になった人物に恩返しをする幽霊、仲西。
恩も恨みも関係なく、名前を呼んだものをさらってしまう危険な妖怪、仲西。

どちらの面が正しいのか、あるいはどちらの面も正しいのか。資料が増えても、謎は深まるばかりです。

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